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たまにはすっぴんで

たまにはすっぴんで

 「男らしくするために女を磨く」でも書きましたが、ネイティヴのうらやましいところは「男らしく」できることです。正確には、多少ガサツにしていても女と見なされる、ということです。
 もちろんネイティヴだってそうそう手は抜けないでしょうし、テキトーにしていたら「お前、それでも女か!」と突っ込まれることもあるかもしれません。ですが、まさか文字通り染色体上の性別を疑われることはないでしょう。時には「パジャマかよ」なおばちゃんすらいます。
 ネイティヴの女性はよく誤解しているのですが、綺麗であることと女に見えることはまったく別問題です。女でも綺麗でない人などいくらでもいますが、男と間違われることは滅多にありません。そして多少容色が冴えなくてもせいぜいモテない程度で済みますが、「オカマ」と思われたら最悪石でも投げられかねませんし、仕事に障ることもあり得ます。別に「オカマ」であっても罪なわけはないですし、オフィシャルな場以外では結構皆さん気にしないものですが、仕事や部屋探しなどとなると事情が変わってきます。
 今のわたしなら、普通に外出する時の状態でリード(註)されていることはほとんどないでしょうが、フルタイム(註)初期は毎日外に出る度に戦場に赴くような覚悟でした。仕事をしていても、仕事自体の百倍くらいのストレスを「女であること」から受けていました。「武装」なしで人と認められないのが恐ろしくて、休みの日は部屋から一歩も出ないことが多かったです。
 どんなことでもはじめはそういうものですし、最初は地獄を見るくらいでないと物事は身につきません。ですが、身につけるといっても要するに単に「女である」というだけで、普通の人なら意識すらせずに達成していることです。しかも周囲の人間は誰一人こちらの頑張りなど認めてくれませんし、気付いてすらいません(気付かれたら困るのですが)。異国で働く外国人の気持ちが少しわかりました。
 非常に傲慢な言い方をすれば、男/女抜きで純粋なオブジェとしての美しさを問うなら、その辺のネイティヴ女性に負けない自信はあります。もちろん、きれいになりたいとも思っています。ですが、普通に生きていく上でより大切なのは「適当にしていてもそれなりにやっていけること」です。
 最近になってようやく、すっぴんメガネでもなんとか成り立たせる自信がついてきました。自信というより慣れなのでしょう。コンビニチェック(註)などというバカげたものを久々に試してもなんとかパスしているようですし、スーパーに野菜を買いに行くくらいは罪でないでしょう。
 個人的には、フルタイムに移行したときより、このことにずっと安らぎと解放感を感じています。
○試験に絶対出ないトランス用語マメ知識
パス:希望の性別で認識されること。MtF(Male to Female男から女へ)なら女で通ること。
リード:「バレる」こと。
フルタイム:望む性別で常時生活すること。
コンビニチェック:コンビニではマーケティングのため、レジの最後で男女と年代を示すキーが入力されます。その手元を観察して、自分がどちらと認識されているか知ろうとする、実にみっともないトランスのあがきのこと。全員「五十代男」で入力している横着なバイトもいるので、不必要なダメージを受けることがある。

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