0 空白
SRS第一段階当日
シャワーを浴びる。台湾の彼女に「一週間お風呂は入れないから、当日シャワーした方がいいよ」と言われたけれど、看護師さんにも同じアドバイスを頂戴する。
点滴開始。
8時40分、手術室に移動。英語のできる看護師さんが、緊張をほぐそうと色々話しかけてくれる。嬉しい。でも実はそれほど緊張していなかった。もう、まな板の上の鯉。任せるしか無い。
手術室に入ってちょっとウケたのが、テレビがあること。みんなおしゃべりしながら和気あいあいとしている。こういう雰囲気っていいね。
チャンネルをNHKの海外放送(英語)に合わせてくれる。嬉しい。タイの選挙のニュースをやっている。タイの情報を日本人が英語で語り、タイ人と日本人が見ている。面白い。でもメガネをかけていないので画面はほとんどわからない(笑)。
ドクター待ちが結構長い。両腕を固定され、色々な計測機器を装着される。
ドクター登場。おもむろにガスマスクのようなものを近づけられる。
記憶はここで終わり。
「Open your eyes」の声が聞こえる。
深いリバーブのかかった声で、何度も反復される。陳腐な映画の演出のようだけれど、本当にそう聞こえた。
目を開ける代わり、「I came back! It's amazing!」などあらぬことを大声で口走る。後で聞いたところでは、麻酔の影響でハイになることがあるらしい。実際泥酔して大声で叫んでいるような状態だった。
「What day is it? What time is it?」と質問して、まだ当日の午後三時くらいだとわかる。
突然、わたしについての印象を書いてもらうノートを作成する、というアイデアに捕われる。質問は三つ。
1 Your name
2 Your impression about me. What kind of person do you think I am?
3 Why do you think the world exists?
意味がわかりません・・・。でもこのときは真剣でした(翌日陳謝しました・・)。
気管挿管のせいで声がとても低くなっている。
当日は意識が戻らないかもしれない、と思っていたのに、思い切り覚醒している。
麻酔のせいか、思考が飛躍してまとまらない。目眩がかなりする。
痛みはほとんどない。しばらくして病室に戻る。
ベッドの上で動かなければ、本当に痛くない。鈍いうっ血感があるだけだ。すごい。
ただ身体を起こそうとしたり姿勢を変えようとすると会陰部が痛い。まぁ当然。
今日明日は絶対床上安静。痛みはないけれど、目眩がひどく、ろれつが回らない。
辞書を引いても焦点が定まらず字が読めない。
六時くらいに食事が運ばれてくるが、まったく食欲がない。翌日の朝食も注文する。
スープを少しだけ口に入れてみる。パンは厳しい。食べかけて出してしまったくらい。
水分が欲しくて水をやたら飲む。昨日プレゼントされた飲むヨーグルトを飲む。甘いジュースが飲みたい気分。
記録をつけるのは諦める。
深夜零時現在、この記録を執筆中。
麻酔が切れると相当痛いのではないかと思っていたけれど、動かなければ全然大丈夫。夕食時に色々ピルを出されたので、あの中に強力な麻酔が入っていたのかもしれない。痛みに弱い根性なしのわたしとしては、本当にありがたい。
ドクター、看護師のみなさん、コーディネータのYさん、ここを紹介してくれたWちゃん、色々アドバイスをくれた先輩のKさん、最愛の同胞Mちゃん、あらゆる面でわたしを支えてくれたお友達のAちゃん(あなたがいなければ東京で自殺していたかもね)、すべての同胞と友人、そしてわたしを作って下さった天のお父様に、心から感謝したい。
ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。
多分、人生で最も特別な日。
わたしは帰ってきた。