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見ているだけで「格闘技好き」? | eternal transition::ジェンダー/セクシュアリティ
Categories: 武道 格闘技

見ているだけで「格闘技好き」?

 ブログをうろうろしていて感じることがあります。
 「ブロガーには『格闘技好き』が多い」などという話題が出ることがありますが、「格闘技」「武道」という条件で探しても、K-1やPRIDEを見ながらポテチ食べている人のサイトばかりが目立つのです。
 別にPRIDEに因縁付けようとか恐ろしいことを言っているのではありません。ただ、「野球が好き」「サッカーが好き」という方は、少なくとも人生の一時期に少しは野球なりサッカーなりを経験していたものです。弱くて話にならない部活動だったとしても、仲間内の草野球だったとしても、いくばくかのリアルな体験を経た上で、今は良きファンとして社会人生活を送っているのです。
 ところが、こと格闘技となると、「やる」側の人と「見る」側の人に大きな溝ができてしまっています。多くの「格闘技ファン」にとって、自分がグローブを付けて打ち合うことなど「とんでもない」ようです。「見る」側にとっての格闘技と、「やる」側にとっての格闘技は、まるで別のスポーツであるかのようです。

 そもそも、巷でもてはやされている「格闘技」というのは、スポーツというよりはショウに近いものです。「異種格闘技」など呼ばれ衆人を喜ばせているものは、良くも悪くも見せ物でしかありません。スペクテイタースポーツとしてのプロレスの親戚と言っても良いでしょう。
 別にプロレスが悪いとは思いません。立派なエンターテイメントだと思います。また、プロレスラーが「実は弱い」などとは間違っても思っていません。あの肉体で30分も飛んだり跳ねたりする身体能力は、超人的と言ってもよいでしょう。
 ですが、プロレスはスポーツではありません。
 小島一志さんが『実戦格闘技論』という著書で実に明解に書かれているので、以下その骨子を援用させて頂きます。
 例えばプロ野球というものは、膨大なアマチュア人口に支えられて初めて「プロ」として存在し得ます。ボクシングも同様です。スポーツ競技としての全体像があり、そのピラミッドの頂点として「プロ」が君臨しているのです。アマチュアがあるからプロがいるのです。
 ところで、「アマチュアのプロレス」とは何でしょうか。ほとんど形容矛盾ですらあります。
 念のためですが、大学のプロレスサークルといったものは、初めに「プロレス」あってのアマチュアですから、プロ野球に対する一般野球愛好者とは意味が違います。また、いわゆる「アマレス」、つまりレスリングは立派なスポーツですが、プロレスとはまったく異なるものです。プロレスはあくまでプロレスであって、「プロのレスリング」ではありません。
 同様に、K-1というものもスポーツではありません。「オレ、空手やってるんだ」という人はいても、「オレ、K-1始めたんだよ」という発言は意味がわかりません。K-1の出場選手はそれぞれに立派な挌闘スポーツの背景を持った方で、それはそれは半端ではなくお強いと思うのですが、それでも「K-1」というものはスポーツではありません。あくまでショウであって、競技ではないのです(八百長という意味ではありません)。
 また、異種格闘技戦と呼ばれるものも、スポ−ツ競技とは言えません。確かに格闘競技というものは、どれも原始的闘争にルーツを持つものかもしれません。そういう意味では、「敵を倒す」という共通項をもって、競技の垣根を越えて戦うということには一見意義がありそうです。
 しかし、これがもしサッカーとラクビーだったらどうでしょう。どちらも「フットボール」という意味では、元を辿れば同根です。「元は一緒だから」という理由で両者が戦っても、競技として成り立たないのは明白です。少なくともスポーツとは呼べません。
 このように、「見る」側にとっての格闘技は、野球やサッカーといった他のスポーツとはまるで別格の「見せ物」的扱いしか受けていないのです。
 繰り返しますが、わたしは「見せ物」が悪いと思っているわけではありません。「見せ物」は「見せ物」で立派な娯楽です。
 ですが、もしもあなたがラグビーを愛する人であったなら、「サッカー対ラグビー最強決定戦」などという試合を楽しむことができるでしょうか。
 一方で、「やる」側の格闘技はまったく異なる世界です。
 世間では「打撃は寝技に勝てない」「いやいや、今は打撃復権の時代だ」などという外野の意見が飛び交っていますが、実際にやってみれば、空手でも柔術でも、一歩一歩階段を登っていく喜びは変わりません。大切なのは、「空手か柔術か」ではなく、「昨日の自分より今日の自分」ということです。
 プロ選手を目指すなら話は別ですが、一般の格闘技愛好者にとっては、一番大事なのは競技を楽しみ、昨日の自分を乗り越えることです。こんなことは、野球やサッカーなら自明の理でしょう。
 もちろん、「初めにルールあり」のジェントルマンスポーツとして整備された一連の英国流競技と異なり、格闘技、惹いては武道というものには、単なるスポーツ競技を越えた何かがあるのは間違いないでしょう。武道が魅力的なのもそこですし、また「異種格闘技戦」という幻想が成り立つ根もここにあります。
 しかし、法治国家に生きるわたしたちが格闘技にコミットする時は、たとえそれが建前上のものであったとしても、広義のスポーツというフィルタを通すことになります。これを逆手に取って「試合はしないけどケンカは強い」と主張する妄想武道家もおられますが、アホは放っておけばよいのです。
 この「見る」側と「やる」側という問題は、かつて谷川貞治氏(当時「格闘技通信」編集長)と山田英司氏(当時「フルコンタクトKARATE」編集長)の間で熱く語られたものです。議論は当然のようにすれ違いばかりでしたが、少なくない草の根の「実践者」たちが、山田英司編集長に喝采を送ったものでした。
 谷川貞治氏は今もK-1で有名ですが、山田英司氏という方は、「やる」側の立場にとっては知る人ぞ知る大人物なのです。
 早大「中国拳法同好会」初代主将にして、台湾や大陸で各種中国武術を学び、中国拳法専門誌「武術」副編集長時代には著名な武術家のウソ経歴をスッパ抜き大激論を巻き起こしました。その後新空手やムエタイにも挑戦、「フルコンタクトKARATE」編集長としては「計測可能な競技でなければ自信に結びつかない」と主張。当然のように敵も多く、リングスの前田にトイレに監禁され、そのローキックをカットしたという経歴が知られています。一方でファンの信望も篤く、「挌闘Kマガジン」という雑誌には「山田英司責任編集」というアオリ文が付いたくらいです。現在は「格闘ストリーミングマガジンBUDO-RA」「格闘伝説BUDO-RA」編集長を勤め、毎週日曜日には直接指導にもあたられています。
 中国拳法オタクなら誰でも知っている『拳児』という伝説的マンガの8巻では、悪役「田英海」として登場しています。このマンガの原作者が関係する中国拳法の練習会で不興を買い、勝手にモデルにされてしまったのです。
 この辺りの裏話は、大槻ケンヂ氏『強くなりたい道』という対談集の最終章に詳しいです。他にも素晴らしいエピソードが満載ですので、特別にお勧めです。
 山田英司氏が魅力的なのは、中国拳法という一歩間違うと「理論倒れ」になってしまう武道から出発し(実際、何歩も間違えている人が沢山います)、フルコンという検証可能性の極めて高い競技を経験、なおかつ理論的考察を捨てずに探究を続けているというところです。空理空論に溺れず、メディアの内にあって浅薄な情報に踊らされず、常に地に足をつけ「一人一人のための武道」を実践しているのです。
 正に「やる」側の格闘技愛好者の鏡と言えるでしょう。
 PRIDEやK-1に出場している選手は、確かにものすごく強いでしょう。華やかさもあります。しかし格闘技の醍醐味は、自ら流す汗(と時々血)の中にこそあります。他人の血を眺めて悦にいるのではなく、会社帰りの疲れた身体に鞭打つところにこそ、真の愉しみがあるのです。
 「格闘技好き」を名乗るブロガーは、なんでも良いからまずは自分が汗を流してみてはいかがしょう。K-1を眺めてウンチクを垂れているより、ずっと楽しいこと請け合いです。「ビジネスマンクラス」万歳です。汗と一緒にネタも流れて、ブログの方をやめてしまう可能性も大ですが。
 かく言うわたしも、格闘技系では現在はきちんと指導を受けている立場ではありません。本当は偉そうなことは何も言えないのです。
 というか、ささやかなトレーニングをやめられず、こんなネタを「トランスサイト」で炸裂させてしまっている時点で、かなり問題であります。
 内分泌系がすっかりオンナモードになっている今では、さすがに若かりし頃のパワーはございません。なおかつ顔を傷つけられるのも困る立場なのですが、それでもトランスオッケーそうな道場を密かに探してしまうあたり、武道の魔力は凄まじいものです。
 ステキ道場様、更衣室等で色々問題の多い身分ですが、トチ狂って再入門を試みる際はよろしくおねがいたします。
 「女子の部」に出させてもらえれば、まだまだ使いものになると思います。

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