トランスの就労差別ということがしばしば聞かれます。
先日のワークショップでも、FtMの若者が肉体労働の現場で、染色体上の性別がわかった途端に態度が豹変したケースなどを伺いました。産業の分野にもよるでしょうが、そういう業種で地方であったりすると、まだまだ現実なのかな、と思います。言うまでもなく、看過することのできない問題です。
ただ、知的労働で都市部に限って言えば、一般に言われているほどの就労差別はないのではないかと思います。一定の技量があることは大前提ですが、「就労差別」とされているケースのかなり多くが、本人の思い込みや逃避からきている可能性があります。
ただし、これはカムして事情を説明することが前提で、ノンカム完全潜伏だとかえってトラブルのもとになりかねません。日常の業務で周囲の人すべてにカムする必要はありませんが、就労時には戸籍の問題もありますから誠意をもって話すべきでしょう。当然、わかりやすく受け入れられるように説明する技量が求められますが、その技量もスキルのうちですから、話下手で落とされるのは差別とは言いません。
わたし自身は、この問題で露骨な差別を受けたことはありません。職務経歴書の片隅に注記をつけて、会った上で事情を話し、問題があるようなら遠慮なく断ってもらって構わない旨を伝えています(履歴書の性別欄などには印をつけず、会ってから一つ一つ必要に応じて対応します)。もちろん、問題があっても率直に言ってくれるということはなかなかないのが現実でしょうし、知らない間にトランス問題で切られている可能性は否定し切れません。
と、思っていたら、先日初めて、トランスのことが絡んで渋られる状況に出会ってしまいました。派遣の仕事で、希望にぴったりだったため相当な意気込みで応募、向こうも評価してくれてはいました。断るときの言動が少し曖昧だったので問いただすと「スキル的には問題がないのだけれど、受け入れ態勢がね……向こうの企業の担当者が……」とお茶を濁します。「別に責めるわけではないですから、甘えたことを申しますが、率直に教えて下さい」と食い下がったところ、トランスが問題、ということがわかりました(言葉尻をとらえるようですが、トランスが働くのに必要な「受け入れ体制」って一体何なのでしょうね。スロープがなくても階段上れますが?w)。
正直少しショックです。こんなマンガみたいなことが本当にあるのだな、と呆れてしまいました。同時に、日頃「就労差別なんて妄想だよ」と強がっていたことに、いささか反省を促されました。とりあえずもう一度会ってきちんと話すことにしたので、この個別のケースについては仕方ないにしても、できるだけの情報を持ち帰ってくるつもりです。
とはいえ、こんなものは極一部のケースです。少なくともわたしはそう信じたいです。ハンディになる要素など他にもいくらでも考えられますし、トランス問題などその中では相当軽い部類です。逆に「頑張ってる人」などと勝手に勘違いされて得していることもいっぱいあるでしょう(少なくともわたしは、間違いなく「オイシイ」思いをしていると思います)。トランスは外国人や身体の不自由な方のことを少しは想像してみるべきです。
露骨な就労差別に対して引き下がる必要はありませんが、同時に何でもトランスに結びつけてしまいがちな当事者の思考様式には、警戒しすぎることがないと思います。揺れる自身に対する諌めとして、メモを残しておきます。